東京地方裁判所八王子支部 平成7年(ワ)930号 判決 1996年2月21日
原告(反訴被告)
東京都三多摩地域廃棄物広域処分組合
右代表者管理者
臼井千秋
原告(反訴被告)
日の出町
右代表者町長
青木國太郎
右原告ら訴訟代理人弁護士
石井芳光
同
高谷進
同
酒井憲郎
同
三木祥史
同
松丸渉
右訴訟復代理人弁護士
戸井田哲夫
被告(反訴原告)
田島喜代恵
右訴訟代理人弁護士
梶山正三
同
釜井英法
同
樋渡俊一
同
佐竹俊之
主文
一 本訴原告らの訴えを却下する。
二 反訴被告らは、各自、反訴原告に対し、反訴被告日の出町の町役場において、別紙資料目録一記載の記録、データその他の資料(但し、同資料目録記載の資料中、同目録②の前段に掲げる地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度の常時観測データ(二四時間連続測定)については、昭和五九年四月から平成七年六月までのデータに限る。)を、それぞれ閲覧させ、かつ、その謄写をさせよ。
三 反訴原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、本訴原告(反訴被告)らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 本訴請求
被告の原告らに対する別紙資料目録二記載の資料についての閲覧謄写請求権は存在しないことを確認する。
二 反訴請求
反訴被告らは、各自、反訴原告に対し、別紙資料目録一記載の資料を、反訴被告日の出町の町役場において閲覧させ、かつ、その謄写をさせよ。
第二 事案の概要
多摩地区の廃棄物最終処分場が所在する日の出町住民で、日の出町第二二自治会(以下「第二二自治会」という。)の区域内に居住する被告(反訴原告)(以下単に「反訴原告」という。)が、右処分場の設置、運営等を目的として設立された一部事務組合である原告(反訴被告)東京都三多摩地域廃棄物広域処分組合(以下「原告組合」という。)と、原告(反訴被告)の日の出町(以下「原告日の出町」という。)に対し、別紙資料目録一記載の記録、データその他の資料(以下「本件資料一」という。)の閲覧謄写を求め、これに先立って、原告(反訴被告)ら(以下単に「原告ら」という。)が反訴原告に対し、別紙資料目録二記載の記録、データその他の資料(以下「本件資料二」という。)の閲覧謄写請求権の不存在の確認を求めた。
一 争いのない事実
1 原告組合は、東京都八王子市、立川市、武蔵野市等、多摩地区二六市一町(多摩地区のうち、奥多摩町、檜原町、五日市町、日の出町、秋川市を除く全市町)を構成団体とし、同構成団体の地区内から排出される一般廃棄物の最終処分場の設置、運営、管理を目的とする、地方自治法二八四条一項に基づく一部事務組合である。
原告日の出町は、東京都西多摩郡日の出町を管轄区域とする地方公共団体である。
反訴原告は、第二二自治会の区域内に居住する住民である。
2 原告組合は、東京都西多摩郡日の出町谷戸沢地区に、日の出町谷戸沢廃棄物広域処分場(以下「本件処分場」という。)を設置し、これを運営、管理している。本件処分場は、いわゆる管理型の廃棄物最終処分場であり、底面に厚さ1.5ミリメートルのゴムシートを敷いて、廃棄物に降り注ぐ雨水が地下に浸透するのを防ぐ構造になっている。
3 本件処分場の設置にあたり、原告組合は、昭和五六年一二月二八日、原告日の出町との間で、「日の出町谷戸沢廃棄物広域処分場設置に係る基本協定書」(以下「基本協定」という。)を締結した。
原告組合と原告日の出町とは、昭和五七年七月九日、日の出町第三自治会(以下「第三自治会」という。)との間で「日の出町谷戸沢廃棄物広域処分場に係る公害防止協定」(以下「第三協定」という。)を締結し、同月一二日、第二二自治会との間でも公害防止協定(以下「第二二協定」という。)を締結した。
さらに、原告組合と原告日の出町とは、昭和五八年一二月一九日、第三自治会との間で、第三協定についての細目協定(以下「第三細目協定」という。)を締結し、昭和五九年二月九日、第二二自治会との間で、第二二協定についての細目協定(以下「第二二細目協定」という。)を締結した。
4 反訴原告を含む一二二四名は、原告ら外を相手方として、平成五年七月九日、東京都公害審査会に公害紛争調停(以下「本件調停」という。)を申請し、汚水漏出の調査、漏出の防止等を求めた。右調停手続の第一回期日は、同年八月三一日に開かれたが、最終的には平成六年一〇月一四日に打ち切られた。
5 東京地方裁判所八王子支部(以下「八王子支部」という。)は、同年一二月八日、永戸千恵(以下「永戸」という。)及び志茂鉄弘による、本件資料一の一部についての証拠保全(以下「本件証拠保全」という。)の申立てを全部認める旨の決定をしたが、証拠保全期日において、原告組合は右資料の開示を拒絶した。
6 反訴原告は、同年一一月二九日、原告らを債務者として、八王子支部に対し、本件資料一の一部につき、資料閲覧謄写仮処分(以下「本件仮処分」という。)を申し立て、二回の双方審尋を経て、平成七年三月八日、原告らが反訴原告に対し、日の出町役場において右資料を閲覧、謄写させることを命ずる仮処分決定がされた。
反訴原告は、同日、日の出町役場を訪れ、右資料の閲覧、謄写を要求したが、原告日の出町は、原告組合と協議の上、これを拒絶した。
7 反訴原告は、同月九日、八王子支部に対し、原告らが本件仮処分の債務を履行しないときは、各自一日につき金一五万円の支払いを求める旨の間接強制(以下「本件間接強制」という。)を申し立てた。
同日、原告らは、八王子支部に対し、本件仮処分に対する異議(以下「本件異議」という。)及び執行停止を申し立てたが、右執行停止の申立てに対しては同月二〇日に却下決定がなされた。
さらに、原告らは、同月二二日、八王子支部に対し、本件間接強制に関与する裁判官に対して忌避の申立てをしたが、同月二三日、却下決定がなされ、右決定に対する即時抗告も、同年四月二七日、東京高等裁判所において棄却された。この後の同年五月八日、八王子支部は、本件間接強制の申立てにつき、これを認める決定をした。
これを受けて、反訴原告は、同月一二日、日の出町役場を訪れ、前記資料の閲覧、謄写を求めたが、原告(反訴被告)らはこれを拒絶した。
8 原告らは、同年四月七日、本件訴え(本訴請求)を提起し、同年五月一七日、反訴原告は、反訴請求を起こした。
二 争点
1 本件資料一の閲覧謄写請求権について(本件資料二は本件資料一の一部である。)
(一) 反訴原告の主張
(1) 第三協定と第二二協定とは、いずれも本件処分場の運営等によって生ずる水質汚濁、悪臭、廃棄物の散乱、搬入トラック等による自動車公害等の種々の公害を防止するために締結されたものであり、両者はほぼ同じ内容である。また、第二二細目協定は、その第一条において、第三細目協定を準用すると定めており、両者はほぼ同じ内容となっている。
これらの協定によれば、原告組合は、本件処分場に関して種々の日常的な点検、水質検査等を継続して行うこととされ、かつ、その都度、原告日の出町及び第三自治会に、あるいは原告日の出町及び第二二自治会に、点検、検査結果の資料を提出し、必要があれば説明する義務を負うものとされている。別紙資料目録一の①ないし⑭記載の各点検、検査等の事項(以下「本件点検、検査事項」という。)についても、別紙資料目録一記載のとおり、第三協定及び第二二協定中の第三条、第八条一項(5)、(7)ないし(13)及び(15)、第二二細目協定の第一条、並びに第三細目協定の第一条五項(2)、七項、八項、九項(1)、(2)、一〇項(1)、(2)、一一項ないし一三項、一五項、一六項及び第三条一項(1)、(3)に基づき、それぞれ点検、検査、観測、調査等をすること、並びに右点検、検査等により、取得し、記録されたデータ、記録その他の資料(以下「本件記録資料」という。)を保存することが義務付けられている。
(2) ところで、第三協定及び第二二協定の各第一二条(4)によれば、原告組合は、本件処分場の周辺住民からの要求があったときは、原告日の出町を通じて、本件処分場に関する資料の閲覧又は提供を行わなければならないとされている。右各協定は、本件処分場に直接の利害関係を有する周辺住民に対する配慮から、直接の協定当事者でない周辺住民のために原告ら両名と第三自治会ないし第二二自治会とが締結した合意であり、周辺住民を「第三者」とするいわゆる第三老のためにする契約である。周辺住民が資料の閲覧等の請求をする時には、当然に「受益の意思表示」があるから、原告らは、右各協定により、周辺住民に対し、当該資料を閲覧させ、又は提供する義務を負う。 ここでいう「周辺住民」とは、第三協定における第三自治会に所属する住民、第二二協定における第二二自治会に所属する住民だけではなく、原告日の出町が右協定の当事者であるから、日の出町の町民全部を含むと解釈すべきである。このことは、右条項中で「自治会構成員」と限定せずに「周辺住民」と記載されていることや、原告日の出町の昭和五七年八月五日発行の広報において「周辺住民も町を通じ資料閲覧ができる。」との記載があることからも明らかである。
また、右条項中の「閲覧又は提供」の「提供」には、資料の性質上、資料の写しを交付するとの意味が当然に含まれるし、そもそも「閲覧」請求権が実質的に資料の内容の開示を伴うものであることからは、閲覧請求権自体に資料を謄写する権利が含まれる。
(3) したがって、第二二自治会区域内に居住し、日の出町住民である反訴原告は、第三協定及び第二二協定の各第一二条(4)中の「周辺住民」に該当するから、右条項及び前記(1)の後段記載の各条項に基づき、原告組合及び原告日の出町に対し、原告日の出町役場において、本件資料一についての閲覧及び謄写を求めることができる。
(二) 原告らの反論
(1) 第二二自治会区域内に居住する反訴原告は、第二二細目協定に拘束され、右細目協定に定められた事項の他には、本件処分場に関する資料の報告を求めることはできない。その理由は以下のとおりである。
本件処分場の設置にあたり、原告組合と原告日の出町との間で協議が行われ、本件処分場の直接の地元である第三自治会の承諾も得て、昭和五六年一二月二八日、基本協定が締結され、これを受けて、昭和五七年七月九日、原告組合及び原告日の出町と、本件処分場が設置される地元である第三自治会との間で、第三協定が締結された。一方、原告組合及び原告日の出町と、本件処分場の覆土材置場及び搬入道路が立地する第二二自治会との間では、同月一二日、第二二協定が締結された。さらに、第三協定を受けて第三細目協定が締結され、第二二協定を受けて第二二細目協定が締結された。
第三協定と第二二協定とは、その規定の内容にほとんど違いはないが、第三細目協定の内容と第二二細目協定の内容とは大きく異なる。すなわち、第二二細目協定では、その第一条で、第三細目協定の規定を基本的に準用しながらも、次の第二条で、第二二自治会に対する報告事項を第三自治会に対する報告事項に比べて大幅に限定し、第三自治会に対する関係で承認(了承も含む。)及び立会いを必要とする事項は、第二二自治会との関係では削除するものと定めている。このように、第二二自治会に対する報告事項を大幅に限定する等したのは、第二二自治会の地域には、廃棄物の覆土材置場及び搬入道路が立地するだけで、本件処分場及び第三自治会の地域とは分水嶺により水系を異にし、例えば、地下水等の水質検査等の資料は第二二自治会との関係では不要と考えられたためである。
そして、反訴原告が閲覧謄写を求める本件資料一は、第三細目協定においては第三自治会に対する報告事項とされているが、第二二細目協定においては第二二自治会に対する報告事項とされていない。したがって、当該自治会が報告を求めることができない資料について、当該自治会所属の住民が閲覧謄写を求めることもできないから、反訴原告は、本件資料一の閲覧謄写請求権を有しない。
(2) 次に、反訴原告は、第三協定の第一二条(4)中の「周辺住民」に該当しないから、この点からも同人には本件資料一の閲覧謄写請求権は存在しない。その理由は以下のとおりである。
第三協定の第一二条(4)には、「原告組合は、処分場に関する資料の閲覧等について、周辺住民から要求があったときは、原告日の出町を通じて資料の閲覧又は提供を行わなければならない」旨規定されている。しかし、同条の(1)ないし(4)は、その規定ぶりから明らかなように、それぞれが「項」として独立しているものではなく、同条本文のいわば各号に相当するから、「項」のようにそれぞれ独立して解釈するのではなく、第三条等と同様に、第一二条本文が(1)ないし(4)のすべてにかかるものとして解釈すべきである。そして、同条本文では、「監視員等が立ち入る場合(には)」「次の事項を遵守しなければならない。」とした上で、「次の事項」として(1)ないし(4)を列挙していることからすれば、同条の(4)は、本件処分場に立ち入ることのできない第三自治会の住民が、監視等のため本件処分場に立ち入ることができる監視員等に資料の確認等を依頼し、その後、右住民が原告日の出町を通じて資料を閲覧できる旨を定めた規定である。
したがって、同条(4)の「周辺住民」とは、第三自治会構成員であって、同条本文で、監視員等に委嘱され、予め原告組合に報告された自治会構成員、すなわち処分場問題対策委員会委員以外の住民に限定されるばかりでなく、その周辺住民が資料の閲覧を求めることができるのは、「監視員等が立ち入る場合」に限定されるから、第二二自治会構成員である反訴原告は、第三協定にいう「周辺住民」には該当しないし、本件資料一の閲覧を求めることもできない。
反訴原告は、原告日の出町が協定当事者だから、直ちに町民全体が対象となると主張するが、本件においては、原告日の出町は、地元自治会と原告組合とが締結した協定等が遵守されているか等を監視するために協定当事者になっているにすぎない。また、原告日の出町の広報は「周辺住民」の記載につき何ら解説をしていないから、この点も根拠とならない。
(3) また、右第一二条(4)に基づき、「周辺住民」に対して資料を開示する場合でも、協定当事者である原告組合と原告日の出町は、それぞれ地方自治法上の地方公共団体である協定当事者として、協定等に規定する諸事項、特に、周辺住民が開示を求めている資料が同条に規定する資料の開示条件に該当するか否か、及び開示の必要性、相当性等について、行政処分を行う地方自治行政上における独立の判断権を有するところ、同条(4)によれば、周辺住民が資料の閲覧を求める場合には、必ず原告日の出町を通じて行う必要があるから、周辺住民からの資料閲覧請求に対しては、まず、原告日の出町が、右条件に該当するか否か、及び開示の必要性、相当性を判断し、その後に原告組合が二重に判断することになる。
本件における反訴原告の資料閲覧等請求は、右条件に該当するものではなく、開示の必要性、相当性が認められないから、この点からも同人には本件資料一の閲覧謄写請求権は存在しない。また、原告日の出町に、協定当事者として第一次的な判断権があるのであるから、これを無視して、周辺住民が直接に原告組合に対し、資料の閲覧を求めることはできない。
(三) 反訴原告の再反論
(1) 報告業務と閲覧謄写請求権との関係について
原告らは、「報告事項」の範囲が第三細目協定と第二二細目協定とで異なることを根拠に、第二二自治会に所属する反訴原告には本件資料一の閲覧謄写請求権がないと主張する。
しかし、報告とは、特に請求がなくとも、資料の所持者等が積極的にその内容を開示する行為をいうから、そもそも、報告義務と閲覧謄写請求権とは法的にも完全に異なり、その範囲も全く異なるものである。すなわち、報告義務を免れるということと、資料の閲覧謄写請求があったときにこれを拒否できることとは全くの別問題である。
また、第三協定及び第三細目協定においては、「報告」しなければならない事項が限定され(第三協定第八条三項、第一〇条三項、第三細目協定第三条一項(2)、(3)、同条三項等)、これと区別して、「要求」があった場合に資料の閲覧、提供等を行わなければならない場合として、第三協定第一二条(4)の記載がある。そして、反訴原告が閲覧謄写を求めている本件資料一は、⑭を除き、そもそも、第三協定及び第三細目協定においても報告事項とされていない。したがって、原告らは、第二二細目協定の第二条において、第三細目協定における報告事項を限定したと主張するが、むしろ、第二二細目協定の第二条によれば、第三細目協定において報告事項とされていないものまで取り込んで列挙しているから、形式的には第二二自治会との間では報告義務を強化したものと解釈できる。
なお、原告らは、報告事項の限定等につき「水系」の違いを根拠にするようであるが、本件で問題となっているのは、しゃ水シートの破損を端緒とする周辺地下水の汚染に関するデータ及びその関連資料であるから、問題になるのは地下水の水系であり、原告らのいう沢(表流水)の水系の違いは根拠にならない。
(2) 周辺住民の解釈について
第三協定及び第二二協定は、原告組合と原告日の出町との間の基本協定の第四条(1)ないし(3)に基づき締結されたものであるが、同条(2)には「処分場設置」にあたっては(中略)あらゆる公害・災害による影響を地域住民に及ぼさないよう、万全の措置を講ずること」と、同条(3)には「処分場設置に関して(中略)万一、地元住民の生命財産や日常生活に影響を与え、地下水、河川汚濁(中略)等の被害が発生した場合は、全責任を負い、万全の解決をはかること」と規定されており、右の「地域住民」や「地元住民」の範囲につき、第三自治会住民あるいは第二二自治会住民との限定はされていない。第三協定及び第二二協定の「目的」欄を見ても、協定締結の理由、動機として「乙(原告組合)が甲(原告日の出町)の地域内に谷戸沢廃棄物広域処分場を設置するにあたり」と記載されており、第三自治会の地域内又は第二二自治会の地域内に設置するにあたり、とは記載されていない。
また、第三協定及び第二二協定においては、原告日の出町はいずれも「甲」として協定の第一当事者となっているのに対し、第三自治会又は第二二自治会はいずれも「丙」と位置づけられているにすぎないし、また、原告組合の履行不遵守の際には、原告日の出町が直接「一切の行為を中止させることができ」(各協定第二条(4))、資料の提出を受け(第八条二項)、報告を受ける(同条三項)ことになっており、これらの点からすれば、原告ら主張のように、原告日の出町が監視のためだけに協定当事者になっているのではない。
さらに、第三協定及び第二二協定の各第一二条(4)の規定からしても、資料閲覧等請求権の主体が当該自治会構成員に限定されていないことは明らかである。すなわち、同条本文においては、「甲(原告日の出町)が指名する甲の職員、甲又は丙(第三自治会ないし第二二自治会)が委嘱する監視員並びに丙の住民」を「監視員等」と定義していることから、「丙の住民」である第三自治会構成員ないし第二二自治会構成員はこの中に含まれるのに対し、同条(4)では、資料閲覧等請求権の主体を右「監視員等」と明らかに異なる文言である「周辺住民」と表現しており、これによれば、「周辺住民」とは、「監視員等」に含まれる当該自治会構成員以外の者を指すと解するのが自然である。また、同条(4)では、資料の閲覧等は「甲(原告日の出町)を通じて」行うと規定しているが、閲覧等請求権者が当該自治会構成員に限定されるのであれば、むしろ、同構成員により身近な「丙(各自治会)を通じて」行うと規定するのが自然であるところ、同条(4)があえて原告日の出町を通じて資料を閲覧等させると規定したのは、閲覧等請求権者が当該自治会構成員に限定されないことを前提としているからである。
したがって、同条(4)は、町又は自治会のみではなく、個々の住民に対しても資料閲覧等請求権を保障することにより、町民の人格権、生活権を保護すると共に、公害防止を万全たるものにしようとの意図に基づくものであり、町民全体に対して責任を負っている原告日の出町は、同条(4)の規定において、当該自治会構成員に限らず、町民全員に対して、資料閲覧等請求権を保障したのである。
なお、これまで、原告らは、「周辺住民」を当該自治会構成員に限定する取扱いをしていなかった。昭和五七年八月五日発行の原告日の出町の広報に、「周辺住民」につき何らの解説がなかったのは、同町の担当者自身が「周辺住民」を当該自治会構成員に限定される特別な概念とは考えていなかったからである。現に、平成四年二月ころまでは、第三自治会及び第二二自治会のいずれにも属さない日の出町民からの資料閲覧請求に対し、原告組合及び原告日の出町は、本件処分場への搬入トラック台数台帳、各地でのごみの焼却残滓の成分表、原告組合が定期的に調査している水質検査等の資料閲覧に応じていた。
以上より、第二二自治会区域内に居住し、日の出町住民である反訴原告は、右第一二条(4)の「周辺住民」に該当するから、本件資料一の閲覧謄写請求権を有する。
(3) 監視員等立入りの場合に限定されるとの主張について
原告(反訴被告)らは、第三協定の第一二条(4)による資料閲覧等は、同条本文でいう、監視員等の立ち入る場合に限定されると主張する。
しかし、同条(1)では「随時、必要に応じて、乙(原告組合)の所有する資料を閲覧させなければならない。」とあるから、監視員等が立ち入る場合に限定していないことは明らかであるし、原告組合が協議に応ずべき場合を定めた同条(2)や、本件処分場の監視に係る経費の負担を定めた同条(3)についても、監視員等立入りの有無と無関係である。
したがって、同条(4)が監視員等立入りの場合に限定されることはない。
2 本件資料一の②記載の、地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度の常時観測データ(以下「電気伝導度データ」という。)の存否について
(一) 反訴原告の主張
(1) 電気伝導度データの重要性
電気伝導度データ以外のデータについては、例えば、調整池の水質データが月に一度、他のデータが二か月ないし三か月に一度、底質データに至っては年に一度しか測定していないのに対し、電気伝導度データは、昼夜を問わず、年間を通して連日連続で測定しているため、汚染の程度、地下水とごみ浸出水の混合の程度、地下水位の変動に伴う混合量の変化等を量的に把握でき、水質変動を確実に把握できることから、汚水漏出の程度やその変動までの把握も可能になる等、その価値は極めて高いものである。
また、本件資料一中の他のデータは、数字が記載されている紙にすぎないので、いくらでも作り直しができるのに対し、電気伝導度データは、通常、チャート上仁打点式記録計で一日二四時間常時記録され、この打点記録の改ざんは困難であるから、その意味においても重要な記録である。
(2) 電気伝導度データが存在すること
ⅰ 記録の義務
地下水の電気伝導度を自動測定器で「常時観測」することは、協定に定められた原告組合の義務である(第三細目協定第一条九項(1))。
ここで「常時観測」とは、深夜、早朝を問わず、間断なく、かつ継続して一年中測定を行うことであり、観測値の変動を監視し、異常値の発生等に対処することを目的とするものであるから、必然的にデータの連続測定が必要となる。したがって、原告組合が「常時観測」を義務付けられている電気伝導度データは存在するはずである。
ⅱ 記録計の目撃
本件調停における平成五年一〇月一四日の現地調査の際、反訴原告、右代理人弁護士梶山正三(以下「梶山」という。)、布谷和代(以下「布谷」という。)らは、本件処分場の浸出水処理施設内において、電気伝導度の測定結果が記録されているのを現に見ており、その際、当時、原告組合の参事であった安藤哲士(以下「安藤」という。)からその旨の明確な説明を聞いている。
ⅲ 電気伝導度データの存在を前提とする態度
原告らは、前記第二の一の争いのない事実6記載の本件仮処分の審尋手続及びそれに続く同7記載の本件異議の審理において、電気伝導度データが不存在であるとの主張を一度もしていないし、関連する疎明資料の提出もなかった。なお、原告らは、本件異議の審理が終結した平成七年七月七日の後である同年八月一〇日になって初めて、電気伝導度データが不存在であるとの主張をして、その疎明資料を提出してきたものである。
また、同4記載の本件調停の際、原告らは、反訴原告らから本件資料一の提出を求めちれ、これを拒否したが、拒否の理由は「汚染はない。」、「環境へ特段の影響を及ぼしていない。」等であり、電気伝導度データが存在しないとの主張はなかったし、同5記載の本件証拠保全においても、裁判官からの提示命令に対し、「汚染がないから見せられない。」、「見せる必要がない。」等の答弁に終始していた。
これらの原告らの態度は、弁論の全趣旨としても、電気伝導度データの存在を証明するものである。
(二) 原告らの反論
本件資料一のうち、電気伝導度データは存在しない。以下、その理由を述べる。
(1) 地下水の電気伝導度については、原告らは、第三細目協定の第一条九項(1)に基づき、本件処分場開設時から自動測定器により監視を行っている。右協定上、義務付けられているのは「常時監視」であり、測定結果を記録することは何ら義務付けられておらず、報告事項でもないので、第三自治会と協議の上、これを記録していない。
また、電気伝導度は、水中にどのような有害物質が存在しているかを示すものではなく、水質汚濁防止法において水質汚染状況を示す指標として規定されている項目でもないこと等から、電気伝導度自体は、汚濁の指標として法や条例により観測が義務付けられていない。
さらに、全ての水質分析において、電気伝導度は必ず測定すべきものではなく、本件処分場と同程度の最終処分場二一か所のうち、電気伝導度を定期的に測定しているのは七か所であり、常時監視に至っては本件処分場のみである。厚生省水道環境部監修「廃棄物最終処分場指針解説」においても、平成元年度版に至って初めて、「電気伝導度計といった水質の変化を連続的に検出できる計器を設置し、チャート紙に記録を残す監視方法が将来には望まれる。」と記載され、それ以前には電気伝導度の記載はないところ、本件処分場の稼働開始は昭和五九年であるから、当時、電気伝導度という指標は一般化されておらず、まして、連続記録紙により記録をとることはおよそ想定されていなかった。
(2) 原告組合は、電気伝導度自動測定器のモニターを浸出水処理施設に設置し、目視により測定結果を監視しているが、測定結果は記録媒体に記録されていない。
現在、本件処分場の浸出水処理施設の中央監視操作室には、中央監視操作盤が設置され、流入流量、放流流量、減菌槽PH(処理水の水素イオン濃度)の三項目につき、二四時間連続測定した測定結果が三つの記録計で記録されている。このうち、滅菌槽PHの記録計は、電気伝導度のメーター(表示板)の向かって左側にこれと隣り合って設置されているため、一見、電気伝導度の記録計のように見えるが、そうではない。反訴原告らは別の記録計を電気伝導度の記録計と誤認したか、あるいは記憶違いをしている疑いが極めて強い。また、安藤は、布谷から、電気伝導度のメーター(表示板)のスケールを読むよう要求され、これを呼んで伝えただけである。
なお、一般に、水質データの記録計は、入力するデータにより、同一の記録計によってさまざまな測定結果を記録できることは否定しないが、本件処分場では、開設以来、中央操作監視盤の記録計につき、記録内容の変更は一切行っておらず、このことは、平成五年一〇月一四日の流入流量、放流流量、滅菌槽PHの記録紙に中断の痕跡がないことからも明らかである(電気伝導度の表示器の目盛りについては、地元自治会の改善要望により、「〇〜一〇〇〇〇」のスケールを「〇〜五〇〇〇」のスケールに改善した)。
(3) そもそも、閲覧資料の存在については、閲覧を求める側にその主張立証責任があるところ、本件仮処分の審尋手続において、反訴原告はその主張立証を果たしていないし、仮処分裁判所も資料の存否について全く審理を行わず、本件異議手続においても当初同様だったのであって、右の点についての審理を行わずに反訴原告の申立てを認容した仮処分決定には重大な違法がある。また、本件証拠保全においても、原告らは、閲覧請求権が不存在との認識に立って対応したものであり、電気伝導度データの存否については問われていない。
(4) また、東京都公文書開示審査会は、原始的な設計書、機械パンフレット等の客観的資料等を調査の上、中央監視操作室の中央監視操作盤の表示につき、電気伝導度データを記録できる装置はないこと、及び電気伝導度データは存在しないことを認定している。
(5) 従前、電気伝導度の目視結果については、現場の所長に口頭で報告されるだけであったが、平成七年七月二九日、第三自治会から何らかの記録を残してほしいとの要望があったため、原告組合は、それ以降、現場作業員に対し、電気伝導度の目視結果をメモに記載するよう支持している。しかし、このメモは、電気伝導度データ(二四時間連続測定)ではない。
(三) 反訴原告の再反論
(1) 電気伝導度の測定が法的に義務付けられていないことは、電気伝導度のデータの不存在の理由にならない。電気伝導度は、水質モニター(水質の常時連続観測記録装置)の「基本六項目」の一つであり、汚染物質の特定はできなくても、「汚染」の程度を示す指標になる点で、基本的かつ重要な項目であり、その測定の安定性と相まって、ほとんどの水質モニターに採用されている。
(2) 現在、本件処分場に設置されている記録計と、反訴原告らが平成五年一〇月一四日に目撃した記録計とは、おそらく同一ではない。記録計の背後にある入力端子の差替えにより、同一の記録計をPH測定用に、あるいは電気伝導度測定用に、自由に変更できるからである。したがって、現在、中央監視操作室において、PH測定の記録計があり、電気伝導度測定の記録計がないことを確認しても無意味である。
原告らは、本件処分場開設以来、中央監視操作盤の記録計につき記録内容の変更は一切行っていないと主張する。しかし、原告組合のパンフレットや最近の写真等を比較すれば、中央監視操作室内の操作盤は少なくとも二回は変更されており、また、原告らが、平成五年一〇月一四日の時点で測定していたと主張するPH等の記録紙についても、それらが当時の当該項目の記録紙である根拠は何もなく、既に述べたとおり、記録計の記録内容の変更が容易であることからも、原告らの主張は信用できない。
(3) 原告組合は、電気伝導度の測定結果の目視及び口頭での報告により、第三細目協定第一条九項(1)の「常時観測」をしていると主張する。
しかし、右(1)では、常時観測を行って異常値が出たときは必要な水質検査を行う旨を定めているところ、深夜、早朝等、いつ起こるかわからない異常に対し、目視だけでは、その異常の発生、収束の時期、異常の程度等について的確に把握し、後日これを検証することはできないし、目視していない他の者にこれを正しく報告することもできない。また、昼夜を分かたず人間が目視するには、大変な労力と人件費を要するが、記録計であれば、既に述べた通り、他の項目と併用できるので、費用も労力も要しないし、特に、電気伝導度の記録計は、一般にトラブルが少なく、安定性があり、容易に正確な記録を行うことができる。
したがって、原告らの主張する目視及び口頭での報告では、協定上義務付けられている「常時観測」をしているとは言えない。
第三 争点に対する判断
一 本件資料一の閲覧謄写請求権について
1 証拠(甲一、乙八、二七、証人梶山正三の証言、以下「梶山証言」という。)及び弁論の全趣旨によれば、昭和五九年四月一日に開場した本件処分場の、本件に関連する事項について、以下の事実が認められる。
本件処分場では、浸出水(廃棄物に浸透した雨水や有機物の分解によって発生する汚水の総称)が地下水に混入しないようにするため、急斜面部分を除く廃棄物埋立地の全域に、しゃ水シート(厚さ1.5ミリメートルの合成ゴムシート)を布設しており、さらに、埋立作業中にブルドーザー等の重機によりこれが破損されるのを防ぐため、しゃ水シート上に、埋立地の掘削土を平坦部で一メートル程度、斜面部で五〇センチメートル程度の厚さに投入し、その上に廃棄物を埋め立てる方式をとっている。
そして、埋立地底部のしゃ水シート上には、約二〇メートル間隔で、浸出水集排水施設が樹枝状に配置され、集められた浸出水は、集水幹線を通じて貯留ダムの下に設置された転流工内の配管を経て、浸出水処理施設まで送水されている。これらの浸出水に対しては、浸出水処理施設において、回分式曝気処理により、公共下水道に放流できる水質基準値以下の水質になるよう、一次処理がされた上で、青梅市公共下水道に放流され、最終的には、多摩川上流処理場で終末処理がされて、多摩川に放流されている。
また、埋立地底部のしゃ水シートの下には、地下水によるシートのはらみ出しを防止し、処分場内の雨水排水施設から流出する雨水を取り除くために、地下水排水施設が約二〇メートル間隔で樹枝状に布設され、これにより集められた地下水は、平成二年ないし三年ころまでは防災調整池に流されていた。
2 閲覧謄写請求権について
(一) 第三協定に基づく請求について
(1) 本件点検、検査事項の点検、検査等の義務について
証拠(乙一の1、2)によれば、別紙資料目録一の①ないし⑭記載の各点検、検査等の事項(本件点検、検査事項)については、第三協定の第三条、第八条一項(5)、(7)ないし(13)及び(15)、並びに第三細目協定の第一条五項(2)、七項、八項、九項(1)、(2)、一〇項(1)、(2)、一一項ないし一三項、一五項、一六項及び第三条一項(1)、(3)の各条項に基づき(その対応関係は別紙資料目録一記載のとおり)、いずれも原告組合に点検、検査、調査、観測等をする義務のあることが認められるから、右点検、検査等により取得し、記録されたデータ、記録その他の資料(本件記録資料)は、以下に述べる第三協定の第一二条(4)に基づく資料の閲覧等請求の対象になるものと認めることができる。
(2) 第三協定の第一二条(4)の「周辺住民」の解釈について
ⅰ 第三協定の第一二条(4)では、「乙(原告組合)は、処分場に関する資料の閲覧等について、周辺住民から要求があったときは、甲(原告日の出町)を通じて資料の閲覧又は提供を行わなければならない。」と定められている(乙一の1)ところ、反訴原告は、右協定はいわゆる第三者のためにする契約であり、契約当事者でない「周辺住民」である反訴原告が、第三者として資料の閲覧等を請求できると主張するので、この点を検討する。
ⅱ 民法五三七条にいう、いわゆる第三者のためにする契約とは、契約当事者が、自己の名において締結した契約によって、直接に第三者をして権利を取得させる契約をいうところ、第三協定が、原告らと第三自治会との三者間で締結されたことは当事者間に争いがなく、第三協定の第一二条(4)は、協定当事者以外の第三者である「周辺住民」から要求があったときは、原告組合は、原告日の出町を通じて資料の閲覧又は提供を行わなければならないものとし、「周辺住民」に資料の閲覧又は提供の請求権という権利を取得させていると言えるから、第三協定の右条項部分は、「周辺住民」を第三者とする、第三者のためにする契約であると解することができる。
ⅲ 次に、反訴原告が「周辺住民」に該当するか否かを検討する。
周辺住民の解釈については、原告らは、第三協定の第一二条の規定ぶりからして、同条本文にいう「監視員等」以外の第三自治会構成員に限られ、かつ、監視員等が立ち入る場合にのみ、資料の閲覧を求めることができるだけであると主張している。
しかし、第一二条本文では、「監視員等」の定義として「甲(原告日の出町)が指名する甲の職員、甲又は丙(第三自治会)が委嘱する監視員並びに丙の住民」と定めている(乙一の1)から、「丙の住民」である第三自治会構成員は、当然、「監視員等」に含まれるのに対し、同条(4)では、資料閲覧等請求権の主体を、「監視員等」とは明らかに異なる主体である「周辺住民」としているから、「周辺住民」とは第三自治会構成員以外の住民を指すと考えるのが自然である。また、「監視員等」の右定義からすれば、文理上も、原告ら主張のように、「監視員等」以外の第三自治会構成員が「周辺住民」であると解することには無理があり、同条の規定ぶりから「周辺住民」を限定解釈するとの原告らの主張を採用することはできない。さらに、同条(1)では、原告組合が監視員等に対し、「随時、必要に応じて」資料を閲覧させることを定め、同条(2)では、原告組合が原告日の出町及び第三自治会から要求があった時には協議に応ずる旨を定め、同条(3)では、本件処分場の監視にかかる経費の負担内容を定めている(乙一の1)ところ、これらは、いずれも「監視員等」が本件処分場に立ち入る場合と何ら関係がないから、同条(4)に定める「周辺住民」の閲覧等請求が、同条本文に定める「監視員等」が本件処分場に立ち入る場合に限って認められるとの原告らの主張は理由がなく、したがって、同条(4)の閲覧等請求は、「監視員等」立入りの場合に限って認められるものではないものと解することができる。
むしろ、証拠(乙一の1、三、二四ないし二六)によれば、(ア)そもそも、第三協定の元になった、原告組合と原告日の出町との間の基本協定中では、第四条(2)において「処分場設置にあたっては(中略)あらゆる公害・災害による影響を地域住民に及ぼさないよう、万全の措置を講ずること」と、同条(3)において「処分場設置に関連して(中略)万一、地元住民の生命財産や日常生活に影響を与え、地下水、河川汚濁(中略)等の被害が発生した場合は、全責任を負い、万全の解決をはかること」とそれぞれ定められているが、右に規定された「地域住民」や「地元住民」の範囲については、本件処分場が設置される地域である第三自治会構成員等に限定はされていないこと、(イ)第三協定の「目的」欄には、「乙(原告組合)が甲(原告日の出町)の地域内に谷戸沢廃棄物広域処分場を設置するにあたり(中略)公害を防止し地域住民の生命財産の安全を確保するために、地下水汚染、河川汚濁、交通公害、洪水、土砂流出等自然環境と生活環境の保全に支障を生じさせないことを目的とし、甲、乙及び丙(第三自治会)は次のとおり公害防止協定を締結する。」と定められ、「地域住民」につき何ら限定がないばかりか、第三自治会の地域内ではなく、原告日の出町の地域内に本件処分場を設置するにあたっての協定であることが明記されていること、(ウ)第三協定において、原告日の出町は甲として第一当事者であるのに対し、第三自治会は丙として位置づけられているにすぎないこと、(エ)第三協定第二条(4)では「甲(原告日の出町)及び丙(第三自治会)は、前条の遵守事項について、乙(原告組合)の履行が認められないときは、催告のうえ、処分場に係る一切の行為を中止させることができる。」とあり、第八条二項及び三項では、原告組合に対し、原告日の出町及び第三自治会に対する、資料の提出、顕著な変化等のある場合の説明、点検、検査結果に異常がある場合の報告を義務付けており、第三協定の内容面からしても、原告日の出町が主体的な協定当事者となっていること、(オ)昭和五七年八月五日発行の原告日の出町の広報では、「周辺住民も町を通じ資料閲覧ができる。」と記載され、「自治会構成員」等に限定していないこと、(カ)平成四年一月ないし二月ころまでは、第三自治会及び第二二自治会のいずれにも属さない日の出町民からの資料閲覧請求に対し、原告日の出町及び原告組合は、本件処分場への搬入トラック台数台帳、ごみの焼却残滓の成分表、原告組合が定期的に調査していた水質検査等の資料を閲覧させ、メモもとらせていたことがいずれも認められ、これらの事実に加え、(キ)前記1で認定した本件処分場が採用している公害防止体制も、本件処分場が設置される地域である第三自治会所属の地域住民ばかりでなく、少なくとも日の出町に居住する地域住民のために公害を防止することを目的としていると見られること、(ク)一般に、当該自治会に加入するか否かは各住民の自由であり、当該自治会の区域内に居住するが自治会には加入しない住民に対しても、自治会構成員と同様に、資料の閲覧等請求の機会を与えるべきこと、(ケ)本件処分場の廃棄物埋立地底部のしゃ水シートの下の地下水が汚染されているか否か、それにより本件処分場周辺の地下水が汚染されているか否かについては、第三自治会構成員だけでなく、本件処分場を受け入れた日の出町民全体が、重大な利害関係を有すると考えられること等を併せ検討すると、結局、右第一二条(4)の規定は、協定当事者である原告日の出町や第三自治会だけでなく、日の出町に居住する個々の住民に対しても、資料閲覧等請求権を保障することによって、本件処分場設置に関連する公害の防止を万全なものにしようとしたものと解するのが相当であるから、同条(4)の「周辺住民」には日の出町民全員が含まれるものと解すべきである。
ⅳ したがって、第二二自治会構成員で日の出町民である反訴原告は、第三協定の第一二条(4)の「周辺住民」に該当するものと認めることができる。
(3) 受益の意思表示について
既に認定したとおり、別紙資料目録一の①ないし⑭記載の各点検、検査等の事項(本件点検、検査事項)については、原告組合がその点検、検査等を実施しているところ、右第一二条(4)の「周辺住民」に該当する反訴原告は、第三者のためにする契約の第三者として、同条(4)に基づき、本件記録資料の「閲覧又は提供」を求めることができる。そして、弁論の全趣旨によれば、少なくとも、本件資料一のうち⑥ないし⑭を追加した、反訴原告の訴え(反訴)の追加的変更申立書が陳述された、平成八年一月一七日の時点において、本件資料一の全部の閲覧、謄写につき、反訴原告の受益の意思表示があったものと認めることができる。
(4) したがって、反訴原告は、第三協定に基づき、本件資料一のうち、原告組合が点検、検査等により現に取得し、記録したデータ、記録その他の資料(本件記録資料)の「閲覧又は提供」を求める請求権があると認められるところ、文理上、「提供」は、「閲覧」と別の概念として捉えられていること、本件処分場に関する資料が多岐にわたり、量も多いことが予想されることからすれば、「提供」とは、閲覧に適する形態となっていない資料(例えば、採取した資料、コンピュータの記憶装置に記録されているデータ等)を提供することだけでなく、閲覧に適する資料についても、単に閲覧の機会を与えるにとどまらず、閲覧請求権を実効あらしめるために、資料の写しを交付すること又は資料を提供して請求権者がその謄写をすることを許すことを意味すると解するのが相当であるから、反訴原告には、本件資料一の閲覧だけでなく謄写の請求権も発生していると認めることができる。
また、住民の生活環境を保全すべき行政責任を負っている原告日の出町は、住民のため当事者として本件各協定を原告組合との間で締結しており、右協定においても、原告組合が原告日の出町を通じて、閲覧又は提供を行うことが定められている以上、反訴原告が、本件記録資料の閲覧謄写を求める相手方は、その記録、データ等の記録、保管者である原告組合だけではなく、原告ら両名であると解するのが相当である。
以上より、反訴原告は、第三協定上、原告らに対し、本件記録資料の閲覧謄写請求権を有し、右請求権は既に発生しているものと認めることができる。
(二) 第二二協定に基づく請求について
第三協定に加えて、以下のとおり、反訴原告には、第二二協定上も、本件記録資料の閲覧謄写請求権が既に発生しているものと認めることができる。
(1) 本件点検、検査事項の点検、検査等の義務について
既に認定したとおり、別紙資料目録一の①ないし⑭記載の各点検、検査等の事項(本件点検、検査事項)については、第三協定及び第三細目協定の各条項に基づき、いずれも原告組合にその点検、検査等の義務が定められているところ、証拠(乙一の1、2、二の1、2)によれば、右の根拠となっている第三協定の第三条、第八条一項(5)、(7)ないし(13)及び(15)については、第二二協定中の同じ条項で全く同じ内容が規定されていること、第二二細目協定の第一条では、「甲(原告日の出町)、乙(原告組合)及び日の出町第3自治会が昭和58年12月19日に締結した、日の出町谷戸沢廃棄物広域処分場に係る公害防止細目協定書(第三細目協定)を準用するものとする。」と定められており、何らの限定なしに第三細目協定を全面的に準用していることが認められるから、これらの事実によれば、本件点検、検査事項については、第二二協定及び第二二細目協定の各条項によっても、原告組合にその点検、検査等の義務が課されているものと認めることができる。
(2) そして、第二二協定の第一二条(4)は、第三協定の第一二条(4)と全く同じ規定であり(乙一の1、二の1)、既に認定したとおり、右(4)記載の「周辺住民」には、第三者のためにする契約の「第三者」として、本件記録資料の閲覧謄写請求権があり、「周辺住民」には日の出町民全体が含まれることからすれば、日の出町民である反訴原告は、既に受益の意思表示をしていることから、第二二協定の第一二条(4)に基づいても、原告ら両名に対する本件記録資料の閲覧謄写請求権を有するものと認めることができる。
(3) 原告らの反論
これに対し、原告らは、第二二細目協定では第二二自治会に対する報告事項を大幅に限定する等しており、本件点検、検査事項は、第三細目協定においては報告事項となっているが第二二細目協定においては報告事項とされていないことから、報告を求めることのできない資料について閲覧謄写を求めることはできないと主張する。
前認定のとおり、反訴原告は、第三協定に規定する周辺住民として同協定に基づき本件記録資料の閲覧謄写請求権を有するのであるが、仮に、第三協定に基づいては閲覧謄写請求ができず、第二二協定に基づいてのみ閲覧謄写請求権を有するとしても、一般に、ある資料について、その内容の報告義務を免れるか否かと、その閲覧謄写請求があったときにこれを拒否できるか否かとは全く無関係であるから、第二二自治会に対する報告事項になっていないからと言って、周辺住民にはその事項の資料の閲覧謄写請求権がないということはできない。のみならず、証拠(乙一の1、2、二の2)によれば、本件点検、検査事項については、⑭を除き、第三協定及び第三細目協定においても報告事項とされていないこと、第二二細目協定の第二条において列挙されている報告事項については第三協定及び第三細目協定中で報告事項とされていないものもかなりあることが認められるから、原告らの主張は、既にその前提において誤っており、その主張を採用することはできない。
(三) 開示条件の該当の有無、開示の必要性、相当性等の主張について
原告らは、周辺住民の閲覧謄写請求に対する本件資料一の開示(閲覧等)が、一般的に閲覧謄写が禁止されている文書に対する禁止の解除をするかどうかという行政庁の判断をまって初めて許される、すなわち、本件資料一の開示(閲覧等)を認めるか否かの判断が行政処分であることを前提とした主張をするようであるが、行政処分とは、行政庁が、法に基づき、優越的な意思の発動又は公権力の行使として、国民に対し、具体的事実に関し法律関係を規律する単独行為をいうところ、本件処分場に関する本件資料一の閲覧等については、協定当事者間の合意により取り決めがされているものであって、右協定の要件に該当するときは、原告らは、当然、周辺住民に対し、閲覧謄写させるべき協定上の義務を負うものであり、周辺住民は、閲覧許可という行政処分をまって初めて閲覧謄写をすることができるようになるわけではないから、この点についての原告らの主張は失当である。
3 以上より、反訴原告は、原告らに対し、第三協定及び第二二協定に基づき、本件記録資料の閲覧謄写請求権を有していると認めることができる。
二 電気伝導度データの存否について
1 本件に至る経緯
以下の証拠によれば、前記第二の一の争いのない事実及び前記一の1記載の事実に加えて、次のとおりの事実を認めることができる。
(一) 昭和五九年四月一日、本件処分場が開場した(甲一)。
(二) 本件証拠保全を申し立てたうちの一人である永戸は、本件処分場から約一キロメートルの所に居住する日の出町の住民であり、本件処分場に捨てられたごみの中の物質がゴムシートから漏れ出る等して、飲み水等に悪い影響を与えているのではないかと心配していた。平成四年一月ないし二月ころまでは、原告日の出町の衛生課は、永戸らの要求に対し、本件処分場への搬入トラック台数台帳、ごみの焼却残滓の成分表、原告組合が定期的に調べている水質検査等の資料を見せて、メモもとらせていたが、それ以降は、資料の謄写だけでなく、閲覧にも応じなくなった(以上、乙二五、二六)。
(三) 本件処分場では、開場当初は、しゃ水シート上の浸出水については、浸出水処理施設で処理した後、公共下水道に放流し、しゃ水シートの下の地下水については、これを集めて防災調整池に流していたが、原告組合は、平成二年ないし三年ころからは、地下水についてもこれを浸出水処理施設において処理するようになった(甲一、乙八、二七、二九の1、梶山証言及び弁論の全趣旨)。
(四) 平成五年七月九日、反訴原告を含む一二二四名が、原告ら外を相手方として本件調停を申請した(争いがない)。
同年八月三一日、本件調停の第一回期日が開かれ、調停申請人らは、同日付けの書面において、電気伝導度データを含む、本件処分場に関する資料を列挙し、これらの開示(コピーの交付)を求めた(乙二七、三七の1、三八)。
(五) 同年一〇月一四日、本件調停に際して、本件処分場における現地調査が行われたが、その時の経過は以下のとおりである。
調停委員、調停申請人の代表としての住民ら、代理人弁護士が、原告組合側の安藤らの案内により、本件処分場の各施設や埋立地を見学したが、住民側が持ち込んだカメラ、ビデオ、テープレコーダーの使用は、調停手続の非公開を理由に禁止され、また、梶山が採水用のポリ容器を持ち込んで希望した採水も、原告組合側に、調停委員の視察が目的であるとして拒否された。最後に浸出水処理施設へ案内され、曝気施設等の見学の後、中央監視操作室の見学となったが、入室は調停委員、反訴原告及び布谷を含む住民五名並びに梶山に限られた。
安藤は、中央監視操作盤に組み込まれていた電気伝導度のメーター(表示板)を含めて、一通りの説明を行った。梶山は、最も関心を持っていた電気伝導度の数値を読み取るため、まず、メーター(表示板)と記録計の連動を確認し、その上で、〇から一〇〇までの目盛りのある記録計が約六五パーセントの所を指していたので、これをもとに、〇から二〇〇〇までの目盛りのあったメーター(表示板)において、電気伝導度が一三〇〇(マイクロシーメンス/センチメートル)であると読み取った。なお、梶山の記憶では、記録計はペン式(常時紙にペンが記載を行うもの)ではなく、打点式(何秒かおきにペンが上下するもの)であったが、記録計が中央監視操作盤に組み込まれていたのか、中央監視操作盤の前の机の上に置いてあったのかについての記憶は現在では判然としない(以上、甲二、一九、乙四ないし七、梶山証言)。
(六) 同年一一月五日、本件調停の第二回期日において、原告らを含む相手方の代理人は、反訴原告を含む申請人らの資料開示請求に対し、各申請人個々の被害の場所、実態等につき明らかになった上で資料を開示したいが、仮に開示する場合には、膨大な量のため、閲覧(謄写はかまわない)にしてほしいと答えた。
平成六年三月七日の第四回調停期日において、申請人らは、電気伝導度データを含む資料の開示を要求したが、相手方に拒否された。
同年四月二二日の第五回調停期日において、相手方は、地下水が汚染されていないことを示すものとして、本件処分場付近に一〇本の観測用井戸を掘って地下水調査をした結果を提示したが、これに対し、申請人らは、しゃ水シートが破れているが否かについては、そのような井戸を掘るよりも、電気伝導度データを見せてもらえばはっきりするとして、その開示を強く要求した。これに対し、相手方の一人である原告組合の当時の参事であり、本件調停にも継続して関与していた安藤は、申請人らの主張する被害の実態等が明らかにならない限り、これを開示することはできないと答え、相手方の代理人も、環境に影響を及ぼす範囲のデータは既に開示しているので、電気伝導度データを開示する必要はないと答えた。
同年六月一六日の第六回調停期日においても、申請人らの電気伝導度データの開示の要求に対し、安藤は、公害被害があるか否かを最重点に考えており、相手方の方で必要と思われるデータを開示しているから、開示の必要はないと答えた。
同年一〇月五日の第八回調停期日において、相手方が申請人らとの共同調査に応じない場合には調停を打ち切る旨が確認され、同月一四日の相手方の拒否回答により、本件調停は打切りとなった(以上、乙二七、三七の2ないし8)。
(七) 同年一二月八日、永戸らによる本件証拠保全の申立てが八王子支部において認められた(争いがない)。
これを受けて、同月一六日、本件証拠保全期日が実施され、八王子支部の担当裁判官が、同日昼ころ、本件処分場に出向いて証拠保全の趣旨を説明したところ、原告組合側がしばらくの間検討させてほしい旨申し出たため、担当裁判官はこれを了承した。五時間以上経過した後、原告組合側は、結局、当該資料の開示を拒否したが、その理由として、汚染の事実がないから当該資料を見せる必要はないし、また、当該資料は地元自治会と原告らとの三者で定めた公害防止協定に基づき収集したものであって、原告組合が勝手に開示することはできないと述べたにとどまり、電気伝導度データについては不存在であるとの主張はなされなかった(以上、乙一〇、三六の15)。
(八) 反訴原告は、同年一一月二九日、本件仮処分を申し立て、二回の双方審尋を経て、平成七年三月八日、反訴原告の申立てを認める決定がなされた(争いがない)。
本件仮処分の審尋において、原告らは、もっぱら協定の解釈問題や保全の必要性に関する主張をしたにとどまり、そもそも電気伝導度データについては存在しないとの主張は何らされなかった(乙二八、三五、三六の1ないし7)。
(九) 本件仮処分の申立てが認められた翌日である同月九日、原告らは、本件異議及び本件仮処分の執行停止を申し立てたが、右執行停止の申立てに対しては、同月二〇日、却下決定がなされた。
本件異議が申し立てられたのと同日である同月九日、反訴原告は、本件間接強制を申立て、これに対して、原告らは、右手続に関与する裁判官に対する忌避を申し立てたが、右申立てが却下され、右決定に対する即時抗告も棄却された後の、同年五月八日、本件間接強制の申立てが認められ、本件仮処分の債務を履行しないときは、各自一日につき金一五万円を支払うべき旨の決定がなされた(以上、争いがない)。
なお、本件間接強制については、その後、八王子支部において、本件仮処分の債務を履行しない場合の負担金を、一日につき金三〇万円に増額することを認める決定がなされている(甲一二の1、弁論の全趣旨)。
(一〇) 同年四月七日、本件訴えが提起され、同年五月一七日、反訴請求が提起された(争いがない)。
(一一) 同年三月九日、本件異議が申し立てられてから、同年六月三〇日の最後の期日までの間、何回かの期日が開かれたが、原告らの主張はほぼ従前の通りであり、電気伝導度データが存在しないとの主張はなされなかった。同月三〇日の右最終期日において、原告らは、当日付けの反訴原告の準備書面に対する認否を行いたいと希望したので、異議裁判所は、同年七月七日を本件異議の審理終結日とすることに決定し、それまでに原告らの準備書面を提出するよう指示した。同月七日に原告らの準備書面が提出されたが、その内容は、もっぱら協定の解釈について、反訴原告の主張に対する原告らの反論を述べたものであった(以上、乙三五、三六の8ないし13、15)。
(一二) 原告組合の参事であった安藤は、本件調停や本件仮処分等を通じて本件紛争に深く関与してきたが、その後、異動となり、本件異議の審理中である同年六月中旬ころ、東京都庁の職員である跡部久男(以下「跡部」という。)が、原告組合の参事として着任し、同年七月ころから、本件処分場での業務に携わるようになった(乙二八、三七の1ないし8、証人跡部久男の証言(以下「跡部証言」という。)及び弁論の全趣旨)。
(一三) 平成四年一一月ころに引き続き、平成七年七月二九日、第三自治会から原告組合に対し、電気伝導度の測定結果を記録する記録計をつけてほしいとの要望が出されたが、原告組合は、現在、裁判中で記録の存否が問題になっているので、記録計をつけることはできないと回答した(甲二〇、跡部証言)。
(一四) 原告らは、反訴原告に対し、本件間接強制に基づく負担金として、同年八月四日ころまでの間で、約一七〇〇万円に近い金員の支払いをしてきたが、同月五日ころからはいったん右金員の支払いを停止した(乙一八、二〇、三六の16)。
(一五) 本件異議の審理終結日である同年七月七日から約一か月後である同年八月一〇日、原告らは、異議裁判所に対し、電気伝導度データが存在しない旨を主張する内容の準備書面を提出した(乙三五、三六の14、15)。
(一六) 原告らは、反訴原告に対し、同年七月三一日付け書面により、同年八月七日以降、本件資料一の一部につき、任意開示に応じる旨を連絡し、これを受けて、同月一一日及び同月二二日、原告ら関係者と反訴原告関係者との協議が行われ、その際、本件資料一の一部が原告らから示された。また、同年九月二七日及び同月二九日、本件資料一の一部につき、反訴原告らによる写真撮影が行われたが、電気伝導度データについては、原告らから示されることはなかった(以上、甲一二の1、乙一〇、一八、二〇)。
(一七) 同年九月四日、異議裁判所は、本件異議の申立てに対し、本件仮処分を認可する旨の決定をしたが、原告らの電気伝導度データ不存在の主張に対しては、審理終結日の後に提出された準備書面によるものであったため、これについての判断はしなかった(乙三六の16)。
(一八) 平成七年一二月一八日の時点において、本件処分場の中央監視操作室内の中央監視操作盤には、その中段の右寄りに、「転流坑地下水電導度」とのプレートが付けられた電気伝導度の測定結果を表示するメーター(表示板)が存在し、その左側に「滅菌槽PH記録計」とのプレートのある記録計が、さらに左側には「放流流量記録計」とのプレートのある記録計と「流入流量記録計」とのプレートのある記録計とがそれぞれ存在した。これらの三つの記録計はいずれもペン式であった。また、電気伝導度のメーター(表示板)の目盛りは、現在、〇から五〇〇〇であり、目盛板が平成七年七月ころ取り替えられたと跡部は聞いているが、同人はこれに関与していない。
平成三年に中央監視操作盤の右側に設置された「監視盤2」には、記録計が一つあり、さらにその右側にも記録計があるが、これが何の記録計かについては跡部は把握していない(以上、甲五、一八、梶山証言、跡部証言)。
(一九) 本件処分場の浸出水処理施設の担当職員は、原告組合の職員でもなく、東京都の職員でもなく、業務委託先の会社の社員であり、したがって、中央監視操作室で執務する職員も、委託先の社員である。夜間、同室で執務する職員はいない(以上、跡部証言)。
2(一) 電気伝導度データの重要性
証拠(乙一四、一九、梶山証言)によれば、電気伝導度とは、電気の伝わり易さの度合いを示すものであり、伝わりにくさの度合いを示す電気抵抗とは逆数の関係にあること、その単位は、通常、マイクロシーメンス/センチメートルであること、電気伝導度は水質モニターの基本六項目のうちの一つであり、その測定により、溶液中に含まれる種々の成分の割合までを知ることはできないが、その全部の量を容易にかつ敏速に知ることができるため、水の純度を測定したり、一種類のものだけが溶解している溶液の濃度を測定したりするのに、極めて便利な指数であること、その意味において、汚染物質を特定はできないが、これらに敏感に反応する点で、人間で言えば体温を測定するようなものであることが認められ、これらの事実によれば、電気伝導度は、水質の汚染の有無、程度を把握するのに大変重要な指標であると認めることができる。
また、証拠(乙一三ないし一七、梶山証言)によれば、電気伝導度の自動測定器は、測定結果が外界の影響を受けにくく、機器の安定性に優れ、表示スケールのゼロスパンが動きにくいため、自動測定自体は大変容易であり、一般人でも使えること、水質モニター(自動監視装置)については、電気伝導度を含めた項目を自動測定できるものがいろいろと販売されており、いずれも右自動測定結果を記録する記録計が組み込まれていたり、選択搭載できたり、別売りになっていたりすること、記録計は汎用型が一般であり、測定項目を変更することは容易であり、特に一体型の水質モニターの場合には、出力の範囲を統一しているため、より簡単に変更できること、これらの水質モニター及び記録計のうち主要な製品については、梶山が昭和四七年から昭和五九年まで、東京都公害研究所(現在の東京都環境科学研究所)水質部に勤務していた頃に、その存在を知っていたことが認められ、これらの事実によれば、本件処分場開設の昭和五九年当時においても、一般に、電気伝導度の自動測定及びその測定結果の記録は容易であり、かつ、十分なしえたものと認めることができ、既に認定した電気伝導度の測定自体の重要性と、測定結果の記録が自動的にかつ連続してなされる点でその改ざんが非常に困難であることを併せ考えれば、本件において、電気伝導度の測定結果の記録は大変重要なものであると認めることができる。
(二) 測定結果の記録の義務と必要性
(1) 協定上の記録の義務
第三細目協定第一条九項「地下水の水質検査」の(1)においては、「地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度を自動測定機(1台を予備として常備すること。)により常時観測を行い、異常値が出たときは、別表―1の項目について水質検査を行うとともにその原因を究明するものとする。また、3か月に1回別表―1の項目について定期検査を行うものとする。」と規定されているところ、原告らは、本件処分場開設当時から、地下水の電気伝導度については自動測定機により監視(目視)を行うことにより、右協定上の義務を果たしており、さらに測定結果を記録することは、右協定上、義務付けられていないと主張する。
しかし、既に認定した本件処分場が採用している公害防止体制、本件訴訟に至る経緯及び証拠(甲一、跡部証言)によれば、右協定上、地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度の「自動測定機による常時観測」が義務付けられたのは、しゃ水シートの下に処理前の汚染された水が浸出して地下水が汚染される可能性も考慮したからと推測されること、そうだとすれば、常時、電気伝導度測定値の変動を把握して異常値の発生等に対処する必要があることが認められ、これらの事実に則して、右協定の文言を検討すると、そもそも「観測」というのは、単に注意して見張ることを意味するにすぎない「監視」と異なり、自然現象の推移、変化を観察、測定することであるから、機械を使うかどうかは別として、測定結果を記録するという意味を当然に含んでおり、それに加えて、これを「常時」観測することにより、何らかの異常に対応する必要があるとすれば、夜間も人間が観測を続ける場合を除いては、自動的に記録する記録計をつけざるを得ないと考えるのが常識にかなうところである。したがって、右協定上の「常時観測」には、夜間も人員を配置して定時に測定結果を観測させ、その結果を毎日定期的に文書をもって報告させる場合でない限り、測定結果の記録も義務付けられているものと解すべきである。また、既に認定したとおり、第三協定では「周辺住民」に資料の閲覧謄写請求権を認めており、周辺住民から要求のあった時にはいつでも見せることのできる態勢になっている必要があるから、その意味においても、協定上、電気伝導度の測定結果を記録することが義務付けられているというべきである。
これに対し、原告らは、そもそも、電気伝導度の測定自体が、水質汚濁防止法や条例等により義務付けられているものではないし、本件処分場と同程度の最終処分場二一か所中、定期的測定をしているのが七か所で、常時「監視」に至っては本件処分場だけであるから、まして、電気伝導度の測定結果につき記録をとることはおよそ想定されていないと主張する。しかし、本件で問題となっているのは、まさに、当事者が合意の上締結した協定の条項に基づく「常時観測」であるから、法律や条例でどこまで義務付けられているかは直接には関係なく、まして、他の処分場が電気伝導度を測定しているかどうか、また、どのような取り決めにより、どのような方法で測定をしているかは本件とは全く無関係である。また、原告らは、本件処分場開設は昭和五九年であって、厚生省水道環境部監修「廃棄物最終処分場指針解説」において、平成元年度版以前には電気伝導度の記載がないことも根拠とするようであるが、右事実を裏付ける証拠の提出はないし、仮に、原告ら主張のとおりとしても、証拠(乙一二、梶山証言)によれば、むしろ、東京都は、昭和六一年三月三一日現在において、都内二三か所の河川において電気伝導度の測定をしていること、右二三か所の河川に測定室が設置されたのはいずれも昭和四六年から昭和五〇年の間であること(なお、各測定室においていつの時点から電気伝導度を測定しているかは判然としない。)が認められるから、原告らの主張は全く理由がない。
(2) 実際の記録の必要性
既に認定したとり、中央監視操作室で執務する職員は委託先の会社の社員であり、その上、夜間は誰も執務していないところ、跡部証人は、右職員が、執務のかたわら、電気伝導度のメーター(表示板)を目視しているが、何ら記録をとっておらず、口頭での定期的な報告もなく、跡部の方で質問すれば答えがある程度であると証言している。また、前記第三細目協定第一条九項(1)によれば、常時観測をしていて異常値が出た場合には、所定の水質検査と原因究明が義務付けられているところ、この点について、跡部証人は、電気伝導度の数値に異常が出れば、本件処分場を維持管理している事業課の方で、水質検査をするか否か等を判断することになると証言しつつ、異常か否かの基準は右協定上、示されていないと証言する。
しかし、継続して記録をつけていなければ、夜間に誰も執務していない中央監視操作室においては、何が異常で何が異常でないかの判断をすることは不可能であるし、また、実際に電気伝導度のメーター(表示板)を見ている人間がその判断をするのではなく、事業課の方で対応を判断するというのであるから、現場の人間から事業課に対し、測定結果を何らかの方法により伝えなければ、事業課の方でも判断のしようがないし、後日、これを検証して原因を究明することもできないはずである。そして、既に認定したように、記録計は汎用型が普通であるから、わざわざ夜間に人員を配置して記録させるよりは、既にある記録計を使って電気伝導度の自動測定結果を記録する方が、費用も労力も大幅に節約できるはずである。
したがって、これらの点に鑑みれば、記録は一切とっていないとの跡部証人の証言は、容易に信じることはできない。
(三) 記録計の目撃
(1) 証拠(梶山証言)によれば、梶山は、東京工業大学理工学部化学科を卒業し、理学博士の資格を持っているが、昭和四七年から司法試験に合格する昭和五九年までの間、東京都公害研究所(現在の東京都環境科学研究所)の水質部に勤務し、水質自動測定器(水質モニター)の開発研究、水棲生物を指標とする河川における重金属汚染の研究、汚濁負荷量の常時連続測定に関する研究等に従事しており、特に水質モニターの開発研究については、在職中の一二年間ずっと携わっていたことが認められる。右事実によれば、梶山は水質モニターに関しては専門的な知識を有していると認められるが、既に認定したとおり、その梶山は、電気伝導度のメーター(表示板)と記録計との連動を確認した上で、記録計が六五パーセントの所を指していたことから、二〇〇〇までの目盛りのあったメーター(表示板)において、電気伝導度の数値が一三〇〇マイクロシーメンス/センチメートルであると読み取った旨、記録計が打点式であった旨、さらに、記録計の方がメーター(表示板)よりも数字が広がっていて正確に読み取りやすいため、先に記録計の方を読み取ってからメーター(表示板)の方にあてはめた旨の非常に具体的な証言をしていることからすれば、同証人の証言は十分信用するに足り、右証言によれば、平成五年一〇月一四日、梶山が、本件処分場の中央監視操作室内で、地下水電気伝導度の記録計を目撃したものと優に認めることができる。
(2) この点につき、梶山は、右記録計が、メーター(表示板)と同様、中央監視操作盤の中にあったのか、あるいは操作盤の前の机の上に置いてあったのか、記憶が定かでないと証言しているが、一方、専門家としての梶山の経験として、記録計だけを別置きにすることは珍しくなかったと証言しているから、証言どおりに記録計が机の上に別置きにされていた可能性もあるのであって、記録計の置かれていた場所についての記憶が曖昧であることのみをもって、同証人の証言の信用性が損われるものではない。
また、メーター(表示板)の目盛りにつき、原告らは、平成七年七月ころ、本件処分場の開場以来、〇〜一〇〇〇〇だった目盛りを、現在の〇〜五〇〇〇に取り替えたとして、それに沿う証拠(甲五)も提出しており、梶山が見た〇〜二〇〇〇の目盛りは見間違いと主張するかのようである。しかし、甲第五号証の写真9に写っている目盛りが、平成五年一〇月一四日当時、電気伝導度のメーター(表示板)にあった目盛りであることを示す証拠はない。また、当時の原告組合の参事であった安藤の陳述書(甲一九)には、安藤が、布谷に対し、電気伝導度のメーター(表示板)の数値を「1.2掛ける一〇の三乗」と説明した旨の記載があるが、一方、原告らが当時存在していた目盛りだと主張する、甲第五号証の写真9に写っている目盛りには、「×一〇〇」との記載があり、一〇の三乗と一〇〇では明らかに矛盾するから、甲第五号証の写真9に写っている目盛りが、平成五年一〇月一四日当時、存在したものとは、到底、認めるに足りない。
なお、布谷証人は、メーター(表示板)ではなく記録計の目盛りが〇〜二〇〇〇であったと証言し、梶山証人の証言と矛盾するが、一方、布谷証人は、当時、メーター(表示板)と記録計とを区別して考えていなかったと証言しており、記憶が混乱していることが窺われるから、右証言をもって前認定を覆すには足りない。
(3) 次に、原告らは、梶山らが見た記録計は、電気伝導度のメーター(表示板)のすぐ左にある滅菌槽PH記録計であり、これを電気伝導度の記録計と誤認していると主張する。
ⅰ PH記録紙について
まず、原告らは、誤認の根拠として、平成五年一〇月一四日をはさむ同月一三日から一五日までの三日分のPH記録紙が存在すると主張し、これに沿う証拠(甲九)を提出する。そして、跡部証人は、測定項目が何であるかは記録紙の入っている箱に手書きで記載されていることによりわかるし、いつのものかについては、一シートが一五日分でその冒頭に手書きで日付が記載されているので、そこから数えていけばわかると証言し、また、記録紙への測定項目や日付の記載はおそらく委託先の社員が行っているが、今回、甲第九号証を提出するにあたっては、跡部が委託先の社員に対し、保管している記録紙を持ってこさせて、箱の記載や記録紙の冒頭の日付の記載を手掛かりに、当該記録紙を探し出して、証拠として提出したと証言する。しかし、証拠(乙一の2、甲九ないし一一、跡部証言)によれば、PH、放流流量、流入流量のいずれの記録紙にも、測定項目や日付が自動的に記録されるようにはなっていないこと、これらの記録紙については、第三細目協定の別表―10において永久保存とされているにもかかわらず、跡部はこれらの記録紙につき、平成四年以前のものは処分済みであると証言していることが認められ、さらに、箱に測定項目の記載があるだけでは中身が入れ替わる可能性もないではないことや、測定項目や日付を誰が記載しているかも判然としないこと、委託先の社員については、通常、その入れ替わりが頻繁であると考えられること、一般に保守管理の際には日付がずれる可能性があること等を考え併せると、甲第九号証が、平成五年一〇月一三日から一五日までの間のPHの記録紙であるかどうかは疑わしいところである。そして、他に、甲第九号証が原告ら主張どおりの記録であることを認めるに足りる証拠もない。
また、既に認定したとおり、平成七年一二月一八日現在、滅菌槽PHの記録計が存在しているが、これも既に認定したとおり、中央監視操作盤と同種の水質モニターにおいては、記録計の測定項目を自由に入れ替えることができ、このこと自体は原告らも一般論としては争わないから、梶山が、平成五年一〇月一四日当時、電気伝導度の記録計を見たこととは何ら矛盾しない。
ⅱ 設計図について
次に、原告らは、梶山の誤認の根拠として、現在、滅菌槽PH記録計の存在する場所には、本件処分場開設当時から右PHの記録計が存在しており、それを裏付ける証拠として、中央監視操作盤を納入した住友重機械工業株式会社(以下「住友重機」という。)が作成したと称する、昭和五八年一〇月一五日付けの中央監視操作盤の設計図(甲三、四)なるものを提出する。
しかし、証拠(甲五、乙二九の2、三〇、三一、三二の2、跡部証言)によれば、中央監視操作盤自体にも、流入流量記録計のある場所の下に、何回かに分けていくつかの機器類のようなものが新たに設置されたり(証人跡部の証言によれば、防災調整池の電気伝導度を測定しているものもあるようである。)、操作盤上部の大きな水処理系統図の内容が変わっていたり、線の有無等のデザインが変わったり、若干の変更があること、平成三年に、やはり住友重機の納入した「監視盤2」がその横に設置されたことが認められるから、甲第三号証、第四号証だけでは、本件処分場開場以来、中央監視操作盤等が変更されておらず、電気伝導度の測定器等が取り付けられたことはないことの証拠としては十分とは言えず、その後の設計変更の図面又は「監視盤2」等の図面を全て提出し、そのいずれも、電気伝導度の測定器が付けられた形跡のないことが判明して、初めて原告らの主張の真実性が裏付けられるはずである。ところが、原告らは、右設計図を全部提出していないところ、甲第三号証、第四号証だけでは、原告らの主張するように、本件処分場開場以来、中央監視操作盤は変更されておらず、電気伝導度の測定器が取り付けられたことはないこと、したがって、梶山が、滅菌槽PH記録計を電気伝導度の記録計と誤認したものであることを首肯せしめるに足りない。
また、右設計図は昭和五八年一〇月一五日付けであり、第三細目協定の取り交わされた同年一二月一九日の直前のものであるから、当然、右設計図の作成されたころは、第三細目協定の締結に向けての最終段階の折衝がなされていたと見るのが自然であるところ、右協定第一条九項(1)において自動測定器による常時観測が義務付けられている電気伝導度の自動測定結果については記録せずに、右協定中に何ら定めのない滅菌槽PH(第一条八項に規定されているPHは、浸出液原水のPHである。)については記録するというのは、右協定の内容からして理解し難く、締結目的とも合致しておらず、協定締結直前の設計図としては不自然というほかない。この点につき、跡部証人は、滅菌槽PHは施設の維持管理に必要だから記録していると証言するが、到底、納得のいく説明ではない。
したがって、右設計図を理由に梶山が誤認したとの、原告らの主張は採用できない。なお、原告らは、住友重機の環境施設事業部長作成の陳述書(甲一四)で、「谷戸沢処分場の地下水電気伝導度表示器は、浸出水処理施設の中央管理操作盤に設置されておりますが、記録計については、処分場稼働当初から設置されておりません。」との記載のあるものを証拠として提出しているが、既に認定したとおり、そもそも電気伝導度用の記録計というものは存在せず、記録計は汎用型が一般であり、中央監視操作盤には記録計が三つあるから、右記載の趣旨は不明であり、梶山の誤認の裏付けになるものではない。
ⅲ さらに、証拠(甲五、跡部証言)によれば、現在、存在する滅菌槽PH記録計の上にはプレートがついていて、はっきりした字で「滅菌槽PH記録計」と記載されていることが認められ、しかもPHの単位は〇から一四なのであるから、いくら電気伝導度のメーターのすぐ左にこれがあると言っても、水質モニターの専門家の梶山がこれを見間違えるとは考えられない上に、平成七年一二月一八日に裁判所が撮影した写真(梶山証言中の添付写真①)からは、PHの値はほぼ中性の七付近(五〇パーセント付近)を示していることが認められ、滅菌槽の性質上、日頃から中性を保つような処理システムになっていることが予想されるところ、梶山が目撃した六五パーセントという数値とは整合しないから、これまでに検討した点を総合すると、梶山が滅菌槽PHの記録計を誤認したとの原告らの主張を採用することはできない。
ⅳ また、そもそも、電気伝導度データ自体が、中央監視操作盤に入力されていることは当事者間に争いがなく、本件の争点は、右入力された電気伝導度の観測結果が、メーター(表示板)上だけに表示されているのか、記録計によっても常時記録されていたかどうかにすぎないところ、中央監視操作盤に入力された電気伝導度データを、中央監視操作盤自体に取り付けられた記録計によって表示、記録することも、中央監視操作盤に取り付けられた三つの記録計以外の記録計で、中央監視操作盤と連結された記録計をもって記録することもいずれも可能であったと認められるから(乙一三ないし一七、梶山証言)、仮に、原告らの主張するように、中央監視操作盤に取り付けられた記録計は三つであり、その記録計では、当初から現在まで、滅菌槽PH、放流流量、流入流量のみが記録されていたとしても、そのことと、電気伝導度の常時観測記録が記録計により記録されていたこととは、何ら矛盾するものではない(現に、前示のとおり、原告組合は、第三自治会から電気伝導度の測定結果を記録する記録計をつけてほしいとの要望を受けたが、この要望に対し、PH、放流流量、流入流量以外の記録計を取り付けることは、中央監視操作盤の構造上、不可能であるとは言っていないし、梶山証言も、中央監視操作盤に直接取り付けられたのではない記録計で電気伝導度の測定結果を記録していたのではないかということを示唆している)。
したがって、仮に、現在、滅菌槽PHの記録計が存在する場所において、平成五年一〇月一四日当時、滅菌槽PHの測定結果の記録をしていたとしても、そのこと自体が、電気伝導度データの記録計の不存在を根拠付けるものではない。
(四) その他原告らの主張立証の検討
(1) 跡部証人の適格性
跡部証人は、電気伝導度の測定結果については記録していないとの一点張りであるが、一方、その根拠については、浸出水処理施設の職員らからそのように聞いていることと、甲第三号証及び四号証の設計図を見たことと、着任後に現場(中央監視操作盤)を見て確認したことであると証言するだけである。そして、既に認定した事実及び証拠(甲五、跡部証言)によれば、跡部は平成七年六月中旬ころ、原告組合の参事として着任したばかりであること、本件処分場開場当時の話はほとんど聞いていないこと、甲第三号証及び四号証の設計図以外の図面は何も見ていないこと、中央監視操作盤の右側にある「監視盤2」に設置されている記録計が何の測定項目の記録計であるかすら確答できないこと、その右側に少し離れて設置されている「電動弁操作盤」に設置されている記録計が何の測定項目の記録計であるか全くわからないことが認められるから、これらの事実からすれば、着任したばかりで、中央監視操作盤に設置されている記録計以外の記録計のこともほとんど知らないような跡部証人が、職員らから聞いた話と、甲第三号証及び四号証の設計図だけを根拠に、記録が存在しないと証言しても、全く信用することができない。
(2) プレートの変更
また、証拠(甲五、乙二九の1、2、梶山証言、跡部証言)によれば、平成七年一二月一八日の時点で電気伝導度のメーターの上に存在したプレートは、甲第五号証の写真2と同様、「転流坑地下水電導度」と二行で表示され、かつ、その左側の「滅菌槽PH記録計」や「放流流量積算計」等の一行で表示されたプレートよりも幅が短いこと、しかし、昭和六二年に住民側が原告組合から入手した本件処分場のパンフレット(乙二九の2)中の中央監視操作盤の写真では、電気伝導度のメーターがあるはずの場所の上にあるプレートは、一行で表示され、かつ、左側の他のプレートと同じ幅であることが認められるから、現在、電気伝導度のメーターの上に存在する「転流坑地下水電導度」のプレートは、その後取り替えられたものであることが推認できる。
この点につき、跡部証人は、おそらく甲第四号証の設計図のナンバー27欄記載の「雨水導電率指示警報計」のプレートがあったのを、現在の「転流坑地下水電導度」のプレートに取り替えたものと推測でき、電気伝導度のメーターの下にある「L」と「H」の赤いランプがその警報であると証言する。しかし、証拠(甲五、梶山証言、跡部証言)によれば、右の警報については、基準を設定して現実に使用したことはないこと、甲第五号証の写真4に写っている「雨水導電率異常」のランプも警報であるが、同様に使用したことはないことが認められるから、これらの事実に鑑みれば、現在の「転流坑地下水電導度」のプレートの前が「雨水導電率指示警報計」であったとの跡部証人の証言は、にわかに信じ難い。
(3) COD(化学的酸素要求量)との不均衡
証拠(甲五、乙一の2、跡部証言)によれば、第三細目協定第一〇項(2)には「一次処理水の圧送前の水質検査を、月に一回、別表―1の項目について行うほか、CODについては、自動測定機により常時観測を行うものとする。」との記載があること、右記載は、自動測定機により常時観測を行う点において、電気伝導度と同じ取り決めであること、CODについては自動測定されていること、跡部はCODの測定結果については記録されていると思うが、どの記録計かは確認していないと証言していることが認められるところ、第三細目協定上、同じ取り決めをして、それぞれ自動測定しておきながら、一方は測定結果を記録し、他方は記録しないとの取扱いの違いにつき、合理的な説明はなされていない。跡部証人は、CODの総量規制については水質汚濁防止法にその根拠があるからと証言するが、この点のみをもって納得のいく説明がなされたということはできない。
(4) 記録計が汎用型であること
既に認定したとおり、中央監視操作盤と同タイプの水質モニターにおける記録計は汎用型が一般的であり、本件においても、中央監視操作盤に設置されている記録計については、その測定項目の切替えが可能であるし、証拠として提出されたPHの記録紙は、右切替えがなかったことの証拠にはなり得ないから、本件において、平成七年一二月一八日現在、電気伝導度の測定結果を記録していた記録計が存在しなかったことのみをもって、原告組合が、過去において、電気伝導度の測定結果を記録していなかったということはできない。
(5) 東京都公文書開示審査会の判断について、
原告らは、右審査会の判断によれば、電気伝導度データが存在しないことは明らかであると主張するが、証拠(甲一三、乙一一)によれば、東京都公文書開示審査会の判断事項は、東京都(清掃局)が、原告組合から電気伝導度データについての報告を取得しているとは認められず、右データは東京都(清掃局)に存在しないということに限られるから、これのみをもって、電気伝導度データ不存在の根拠とすることはできない。
(五) 経緯の不自然さ
(1) 不存在の主張の時期の不自然さ
既に認定したとおり、原告らは、本件調停、本件証拠保全、本件仮処分のいずれの手続においても、電気伝導度データが不存在であるとの主張をしたことはなく、本件異議においては、審理終結日から約一か月後になって、はじめてその主張を記載した準備書面を提出したため、異議裁判所もその主張を斟酌せずに判断をなしたものであり、その間、原告らは、反訴原告側が特に閲覧等を望んでいた電気伝導度データを含めた資料の閲覧を拒否していたため、本件間接強制に基づき、平成七年八月四日ころまでで一七〇〇万円近くにのぼる莫大な金員の支払いをしている。
そして、この点につき、原告らは、まず、本件証拠保全においては、閲覧請求権が不存在との認識に立って対応しており、電気伝導度データの存否について問われなかったので答えなかったと主張するが、通常、裁判所との間で閲覧請求権の存否について議論するよりも、そもそも当該文書が不存在であると回答する方が簡単であり、時間も短く済むことからすれば、なぜ、当時、そのような対応をとらなかったのか疑問である。また、原告らは、本件仮処分及び本件異議においても、資料の存否について審理が行われず、違法な決定であると主張するが、既に認定したとおり、原告らは、本件仮処分に基づく決定に従わないために、本件間接強制に基づき、莫大な金員を支払ってきており、本件仮処分及び本件異議の各手続において、閲覧を命じられた資料のうち、反訴原告側がとりわけ閲覧等を望んでいた電気伝導度データについては、そもそも存在しないとの主張をするのが最も効果的であるにもかかわらず、この主張をせずに、閲覧を命じられた資料の閲覧を一括して拒否して、莫大な右金員を支払い続けたことは、不自然極まりないというほかない。なお、原告らから本訴請求が提起されたのは、平成七年四月七日であり、訴状中の約二〇頁以上の本文中、約五行ほど、電気伝導度データの不存在の主張がなされているが、比較的時間がかかり、本件間接強制に基づく金員の支払いとも結びつかない本案請求においてこの点を主張するよりも、直接、右金員の支払いに直結する本件仮処分ないし本件異議の冒頭において主張するのが普通であると考えられるから、原告らの対応は、この点においても理解し難い。
また、原告らは、電気伝導度データの存在については、反訴原告が主張立証責任を負うから、原告らは主張しなかったと言う。しかし、そもそも、反訴原告側は、第三細目協定の規定からして、当然、電気伝導度データも存在するとの認識に立っていたはずであり、原告らから特に不存在との主張が出ない限り、これが存在するとの主張立証を積極的にはしないことは無理もないところであるし、裁判所の審理においても、そのような主張が当事者から出ない限り、電気伝導度データの存否が争点にならなかったのは当然である。
したがって、各種の手続において、閲覧を命じられた資料のうち、少なくとも電気伝導度データについては、最も効果的な主張をせずに、資料の閲覧を一括して拒否して、本件間接強制に基づく莫大な金員を支払い続けた原告らの対応は、不自然というほかない。
(2) 原告組合の対応の不自然さ
本件処分場における所在尋問において、原告組合側は、平成七年六月中旬ころ着任したばかりで、これまでの事情もよく知らないと思われる原告組合の新参事の跡部を証人に立ててきたが、反訴原告が最も力を入れて主張している、平成五年一〇月一四日当時の電気伝導度の記録計の目撃についての反証としては、まず第一に、当時、梶山らに説明をした、原告組合の前参事の安藤を証人として立てるのが、最も効果的であると考えられるのに、原告組合はこのような対応をせず、所在尋問が終了した後の口頭弁論期日において、初めて証人として申請してきたにすぎない。また、既に認定したとおり、安藤は、平成五年からの本件調停や本件仮処分等に深く関与しており、跡部よりもはるかに本件の事情に精通しているはずであるのに、原告組合側の第一の証人として出てこなかったのは不自然というほかない。
さらに、既に認定したとおり、原告組合は、平成七年七月二九日、第三自治会からの電気伝導度の記録計をつけてほしいとの要望に対し、現在、裁判中で記録の存否が問題となっているのでつけられないと回答しているが、一方、跡部は、同年七月ころ、電気伝導度のメーターの目盛りが取り替えられたと聞いていると証言しているところ、原告組合側が現状を変更しない方針であれば、メーターの目盛りも変更しないのが普通であると思われるから、原告組合の対応としては矛盾していると言わざるを得ない。
また、跡部は、第三自治会からの要望があった後から、中央監視操作室で執務する委託先の社員に対し、電気伝導度の値を一日一回メモするように指示を出したと証言するが、一方、そのメモが原告組合の方に回ってきているかは確認していないと証言し、そのメモも証拠として提出されていない。
さらに、既に認定したとおり、原告組合は、平成二年ないし三年ころから、しゃ水シートの下の地下水についても、防災調整池に流さずに、しゃ水シート上の浸出水と同様、浸出水処理施設において処理してから、公共下水道に流すようにした一方で、平成四年二月ころから、日の出町の住民に対し、それまで応じていた、本件処分場への搬入トラック台数台帳、ごみの焼却残滓の成分表、水質検査等の資料の閲覧謄写に応じなくなったが、原告組合の右対応は、地下水の処理方法の変更と時期的に近接している。
3 以上、争いのない事実、本件処分場の公害防止体制及び本件に至る経緯に加え、前記2記載の電気伝導度データの重要性、測定結果の記録の義務と必要性、記録計の目撃、経緯の不自然さ等で認定した全ての事実を総合して検討すると、本件処分場が開設された昭和五九年四月から、少なくとも、原告組合の参事の跡部が着任して本格的に執務し始めた平成七年七月より前の同年六月までは、電気伝導度の自動測定の結果が記録され、そのデータが存在したものと推認することができる。
三 結論
1 したがって、既に認定したとおり、反訴原告には、第三協定及び第二二協定に基づき、本件記録資料の閲覧謄写請求権があるから、反訴原告の請求中、本件資料一の①及び③ないし⑭に掲げる記録、データその他の資料、並びに②の後段に掲げる水質検査データについての閲覧謄写を求める部分はすべて理由があり、これを認容すべきである。しかし、反訴原告の請求中、本件資料一の②の前段に掲げる地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度の常時観測データ(二四時間連続測定)の閲覧謄写請求については、昭和五九年四月から平成七年六月までのデータの閲覧謄写を求める部分は理由があり、これを認容すべきであるが、その後のデータの閲覧謄写請求は、右データが存在するとの立証がないから、理由がなく、これを棄却すべきである。
2 また、本件資料二は本件資料一の一部であるところ、本訴原告らの本訴請求の訴訟物は、本件資料二の閲覧謄写請求権の有無であり、本件資料一の閲覧謄写を求める反訴請求の訴訟物と同一であるから、反訴原告の反訴提起により、二重起訴の関係にあるが、反訴原告が単に積極的に閲覧謄写請求権の存することの確認を求めてきたにとどまらず、給付請求として閲覧謄写請求を求めてきた以上、消極的に閲覧謄写請求権の不存在の確認を求めるにとどまる本訴請求は、訴えの利益を欠く不適法な訴えとなったというべきであるから、本訴は不適法としてこれを却下すべきである。
3 なお、反訴原告は、仮執行宣言の申立てをしているところ、本件資料一の閲覧謄写請求も財産上の請求には当たるが、仮執行宣言を付する必要性がないので、これを付さないこととする。
(裁判長裁判官宇佐見隆男 裁判官岩田眞 裁判官釜井裕子)
別紙資料目録一
原告らと第三自治会との三者間で締結された第三協定及び右協定の細目事項を定める第三細目協定、並びに原告らと第二二自治会との三者間で締結された第二二協定及び右協定の細目事項を定める第二二細目協定に規定されている各記録、データ等の資料中、左記の①ないし⑭に該当するもので、昭和五九年四月から閲覧、謄写時までの記録、データ等。
① しゃ水工の点検補修記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(5)、第三細目協定第一条五項(2)、第二二細目協定第一条)
② 地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度の常時観測データ(二四時間連続測定)及び第三細目協定別表―1の項目についての水質検査データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(9)、第三細目協定第一条九項(1)、第二二細目協定第一条)
③ 貯留ダム左岸部に設置されたモニタリング井戸の第三細目協定別表―2の項目についての水質検査データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(9)、第三細目協定第一条九項(2)、第二二細目協定第一条)
④ 防災調整池の第三細目協定別表―1の項目についての水質検査データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(10)、第三細目協定第一条一〇項(1)、第二二細目協定第一条)
⑤ 防災調整池放流口下の底質の分析データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(15)、第三細目協定第一条一五項、第二二細目協定第一条)
⑥ 浸出液処理施設の機能点検記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(7)、第三細目協定第一条七項、第二二細目協定第一条)
⑦ 浸出液原水の水質検査記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(8)、第三細目協定第一条八項、第二二細目協定第一条)
⑧ 一次処理水の圧送前の水質検査記録及びCODについての自動測定機による常時観測データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(10)、第三細目協定第一条一〇項(2)、第二二細目協定第一条)
⑨ 一次処理槽の凝集沈澱汚泥分析記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(11)、第三細目協定第一条一一項、第二二細目協定第一条)
⑩ 気象観測(風向、風速、降雨量、蒸発量、温湿度)記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(12)、第三細目協定第一条一二項、第二二細目協定第一条)
⑪ 埋立地から発生するガスの検査記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(13)、第三細目協定第一条一三項、第二二細目協定第一条)
⑫ 悪臭調査記録(第三細目協定第一条一六項、第二二細目協定第一条)
⑬ 搬入される廃棄物の目視監視報告及び抜き取り検査結果報告(第三協定及び第二二協定の各第三条、第三細目協定第三条一項(1)、第二二細目協定第一条)
⑭ 原告組合が原告日の出町に対して定期的に行う、搬入される廃棄物の収集・中間処理形態と質、抜き取り検査結果等についての搬入団体ごとの報告(第三協定及び第二二協定の各第三条、第三細目協定第三条一項(3)、第二二細目協定第一条)
別紙資料目録二
原告らと第三自治会との三者間で締結された第三協定及び右協定の細目事項を定める第三細目協定、並びに原告らと第二二自治会との三者間で締結された第二二協定及び右協定の細目事項を定める第二二細目協定に規定されている各記録、データ等の資料中、左記の①ないし⑤に該当するもので、昭和五九年四月から平成六年一一月までの記録、データ等。
① しゃ水工の点検補修記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(5)、第三細目協定第一条五項(2)、第二二細目協定第一条)
② 地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度の常時監視データ(二四時間連続測定)及び第三細目協定別表―1の項目についての水質検査データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(9)、第三細目協定第一条九項(1)、第二二細目協定第一条)
③ 貯留ダム左岸部に設置されたモニタリング井戸の第三細目協定別表―2の項目についての水質検査データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(9)、第三細目協定第一条九項(2)、第二二細目協定第一条)
④ 防災調整池の第三細目協定別表―1の項目についての水質検査データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(10)、第三細目協定第一条一〇項(1)、第二二細目協定第一条)
⑤ 防災調整池放流口下の底質の分析データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(15)、第三細目協定第一条一五項、第二二細目協定第一条)